カジキ・ライフ
やあこんにちは。僕はメカジキだよ。
本当なら海で泳いでいるから、こんなところに顔を出したりしないんだけど、このサイトの主宰者が
「市場のページなんだから、人間だけじゃなく、魚だって何か書いてくれ」って言うんで、僭越ながらメカジキ科を代表して、今日からカジキのエッセイを書かせてもらうことになったんだ。
どうぞよろしく。
まずは、そうだな、自己紹介でもしてみようかな。
僕の生まれたのは西インド洋。子どもの頃は亀有という所に住んでたけどね。もちろん魚座生まれさ。趣味はしりとり。特技はギターを弾くこと。もしも、代々木公園あたりでバンドをやってるカジキを見たら、それは多分僕だから気軽に声をかけて欲しいな。
それから、よくみんなから、カジキだと苦労が多いだろなんて言われるけど、そんなことはないよ。うん。僕は自分がカジキだってことがこれで結構気に入ってるんだ。これでも、電車に乗ったり、会社に行ったり、カラオケで唄ったりするし、人並みの生活もしているつもりさ。それにその気になれば、ちょいと太平洋までひと泳ぎすることも出来る。そのへんはむしろ人間より自由じゃないかなあ。
まぁしいていえば、朝、顔を洗うのに洗面台にツノがつかえて困ることくらいかな、苦労といえば。正直これには閉口するよ。何たって、顔を洗うだけで軽く30分かかるんだからね。それでも、慣れればね、なんとかなっていくものさ。
人生なんてそんなものだよ。
セリが始まるよ!
いやあ、まいったね。
昨晩は友人のメバチの奴と一緒に飲みに行ったんだけどさ、ちょいとやり過ぎちゃって、3軒目までは覚えてるんだが、あとはぜ〜んぜん記憶にないんだよ。気がついたらセリ場に寝てて、危なくセリ落とされるところだったのさ。
僕が寝てたセリ場ってのは、築地市場の隅田川に面した場所にあるんだけど、僕はここがワリと好きでね。夜明け前の景色がなかなかキレイなんだ。明けやらぬ空が、少しずつ白んできて、遠くにレインボーブリッジや芝浦方面のビルの赤だの白の灯が、墨汁に絵具を溶かしたように水面ににじんでる。もしも君がニワトリみたいに早起きな体質だったら、ぜひ夜明け前の築地市場に来てみることをオススメするね。けっこうなごむ風景さ。
でも、ここで働く人達には、そんな風情なんて、てんで目に入らないみたい。セリ場に並べられた数え切れないほどの魚と、それを取引する荷受と仲買との威勢の良いやりとりで、あたりはすごい熱気なんだ。うかうかしてると、僕や君なんてはじき飛ばされちゃうかもしれないよ。
おや、振り鈴が鳴ってるね。あのチリンチリンていう音だよ。セリ始まる合図なんだ。
セリはセリ人と仲卸がさし向いになって行うんだけど、まず、セリ人がでっかい声で、魚を一本ずつセリにかけていく。
「ウーアッ、チェキラッ、チェキラッ、テケレッツノパーッ、ピンマル〜、スズヨウ!」
何言ってんだかわかんないけど、これで1本ずつちゃんと競ってるんだよ。すごくリズミカルだ。ラップみたい。思うにラップ・ミュージック発祥の地は、ここ築地じゃないかと思うんだ。ここのセリのかけ声は、マンハッタンの黒人よりもノリがいいぞ。これから、ラッパーになろうなんて若い奴は、まず市場に入って、3、4年修行する必要があるな。
さて、魚がセリにかけられると、反対側のセリ台に並んだ何人もの仲卸の人達が一斉に指を立てて買値を提示して、一番良い値をつけた人がセリ落とすんだけど、これがまさに一瞬のうちに決まるんだな。
実は僕も一度だけセリ台に上がったことがあるんだよ。でも結局は一本もセリ落とすことが出来なかった。
僕は魚だから、指がなかったんだよ。
商いのしやわせ
− 商 い の し や わ せ −
何の言葉だか分かるかい?
これは築地市場の仲卸のお店などで使われている符牒のひとつなんだよ。この短い言葉で、売買の金額を何でも表わせるんだ。
どういうことかっていうと、
「ア・キ・ナ・イ・ノ・シ・ヤ・ワ・セ」を
「1・2・3・4・5・6・7・8・9」と数字をふっていくんだ。ひとつひとつの音節が金額の数字になるんだな。
たとえば2500円なら「キノ」となるし、4800円なら「イワ」だな。
なぜこんな符牒が必要になるかというとね、築地にはいろんなお客さんがひっきりなしに出入りしているわけで、中にはお得意さんもいれば始めてのお客さんもいるよ。
今ここに二人のお客さんが同時に同じような商材を買い求めたとする。その時にストレートにいくらというとカドが立つことがあるんだよ。同じ値段なら良いけど、お得意さんには勉強することもあるじゃないか。
そこで、あ客さんには分からないように、お帳場さんにむかって
「はい、キノ〜」、「あいよ、イワ!」なんて言うわけさ。
こんな符牒はほかにも、
た・か・ら・ぶ・ね・い・り・こ・む (宝船入り込む)
い・つ・ま・で・も・か・わ・ら・ず (いつまでも変わらず)
し・ろ・は・ま・の・あ・さ・ぎ・り (白浜の朝霧)
あ・さ・お・き・ふ・く・の・か・み (朝起き福の神)
なんて縁起の良さそうなのがあって、お店ごとにそれぞれ違うものを使っているんだ。
チビ太のおでんには何がささっていたのか
グツグツグツグツ ……
くーっ、温まる。冬は何たっておでんだよ、おでん。カジキ酒を飲りながらこいつをつまむのが、これがもう最高だね。
この大根をこう、箸で割って口へ、はひほひはひ。うん、汁がしみてて、口の中にじわーっと、ね。実にたまらないのよ。
それからコブ。なぜコンブじゃなくてコブっていうのかね。おでん鍋に入ったとたんにコンブがコブへと何か化学変化みたいな感じで変身するんだろうか。ま、それはともかく、コブってのは自らのダシで屋台骨をささえる、まさにおでん界の重鎮だな。次郎長一家でいうと大政って役回りだろうか。
はー、ふー、ふまふむ。
この、何だね。おでんってのは個々の具がそれぞれに良いわけ。スキヤキっていうと肉が主役であとワキ役だけど、おでんは皆主役、紅白歌合戦のような料理だね。
やっぱ玉子でしょ。これさ、卵じゃなくて玉子なのね。卵だと生物的な感じがして美味しくなさそうだからかね。醤油ラーメンよりも正油ラーメンの方が何か正しいようにさ。それに道端でのっぺらぼうに逢った時なんか、「大変だぁー」とソバ屋に駆け込むと、“それはこんな顔じゃあなかったかい、と言って顔を上げたソバ屋の親父はとたんに玉子のやうになった”と来るわけで。この“玉子のやうな顔”ってのは、やはり「さっぱり系」の顔でせうか。むほむほむほ、げほっ。
はんぺん、ってのも謎だよな。こいつフタを開けた時だけでかいツラしてるけど、後でシオシオになっちゃうし、いてもいなくても、どちらでも良さそうなのに目立つし、食感がまたふざけた感じだし。でも妙に親近感持ったりしちゃいます。ぱふはふはふ。
イエイッ! ちくわぶ、だ!
一体ちくわぶってのはおでん以外に登場する舞台があるのでしょうか。しかも関西にはないっていうし、下町の濃い味のおでん種の中にその姿を見つけた時には、ちょうど年末になるとブラウン管にちらっと姿を見せるかつての演歌歌手のように、ああ、お前そこにいるねえと、ひとときの邂逅に我が身の歩んできた年月すら想いをはせつつ……はぐふぐ、ふはふはふは。こりゃあアレだよ。こんなのガキの食いもんだなんて言う奴いるけど、クテクテに煮込んだちくわぶは最高。もう世界三大珍味のさ、フォアグラに代わってちくわぶに最近決定したらしいと。もうそう決まりだと。よし、今決めた。
ほひーっ。
ではまた来週、ンガングッ。
仁義なき「もんじゃ」の戦い(前編)
とある夕暮れ、僕は魚河岸仲間のメバチ、キハダ、シロカワと一緒に「もんじゃ」を喰いに月島へと出かけた。実のところ、僕はあまり乗り気じゃなかったんだけどね。だって、そうだろう、大の男が徒党を組んで「もんじゃ」を喰いに行くなんて、あまり褒められた図柄じゃないもの。でも、千住生まれのメバチと立石生まれのキハダは、子どもの頃の話なんかしながら、すっかりと盛り上がってる。山の手育ちで「もんじゃ」なんて一度も食べた事のないシロカワまで妙にはしゃいでるんだ。
僕は他の三匹の後ろについて、勝鬨橋をテクテクと渡りながら、一抹の不安を感じていた。そして、その不安は不幸にもすぐに現実のものとなってしまったんだ。
その日は月島でも評判という店に入った。店内は混んでいたけど、僕らは何とか一卓を確保できた。座るが早いか、ダンドリ男のメバチがすぐに店員を呼び、手早く注文する。
「とりあえずビールをジョッキで4つと、この「特製もんじゃ」を4つに冷奴にアタリメにハマグリにシイタケ、あとは又注文するよ」そして最後につけ加えた「もんじゃにはベビースターつけてね」
すると横で黙っていたキハダが突然叫び声を上げた。
「ベビースターだって!?」
信じられないという顔でメバチを見ながら言った。
「僕はそばだ。中華そば入れてくれ。いいか僕はベビースターなんてお菓子に用はないからな」
そして吐き捨てるようにつぶやいたんだ。
「ここは駄菓子屋じゃないんだぜ」
「ほう、それが立石のやり方かい?」メバチが露骨に顔をくもらせる。
やれやれ、始まったぞ。僕は思った。いつもそうだ。何で「もんじゃ」となると他人が許せなくなるんだろうな。たかが「もんじゃ」の事でよ!
「千住じゃこれを“ぼった”というのさ」とメバチ。
キハダは「はじめに半分、そして焼きながらもう半分のソースをかけるのが秘訣なんだ」と息巻く。何のことはない。互いに「もんじゃ」に対してどれだけ思い入れを持っているかを主張しているだけなのに。それでも相手の言い分は絶対に容れようとしない。
メバチとキハダはやがて言い合いに疲れると、今度は「もんじゃ」を初めて喰べるシロカワが知らずに皿に盛ろうとしているのを見て、「喰い方も知らねえのかよ」と一緒になって馬鹿にした。
と、その時、となりの卓に座っていた40歳過ぎのサラリーマン風のオヤジが急に声をかけてきた。
「アンタら、もんじゃ焼くのは素人だね」(つづく)
仁義なき「もんじゃ」の戦い (後編)
「アンタらの焼き方はまるで素人だね」
オヤジは頼みもしないのに、自分のプロフィールなんかしゃべり始めた。
自分が鉄砲洲の生まれで、子どもの頃からずっと「もんじゃ」を喰べ続けてきたこと、いかに焼き方が難しいか、そしてこれがもとは「文字焼き」と呼ばれていたなどというウンチクまで傾けはじめたんで、僕はちょっとイライラしてきた。だって他人の卓へ強引に首をつっ込んできて、知識ひけらかすなんて、仁義に反してると思ったからさ。
すると男は僕らの不信に満ちた視線に気づいたのか、ゆっくりとハガシを取ると、自分の卓で「もんじゃ」の作り方を実演しだした。
それを見て驚いたね。これはデキル、その時僕は本能的にさとったんだ。親指とひとさし指で軽くはさみ、手首のスナップだけで強弱をきめる。鉄板への当て方も角度も実に見事だ。手早く無駄のないその動きは熟練工のそれだ。男は野菜の土手に静かに「もんじゃ」を流し込んでいった。そのひとしずくも外側にはみ出すことなく。ああ、これが鉄砲洲のやり方なのか……まさに完璧だ。
調教師が猛獣を手なずけるように、すべては彼の手中にあった。そう、この熱く焼かれた世界の中では彼の手こそが神の手なのだ。
目前で繰り広げられる光景を、僕らはあっけにとられて眺めていた。男はこっちを見やり、ニヤッと笑った。そして中がグツグツ言い出すと、周囲の土手を少しずつ切り崩し、それから……
あーっ! 何だぁーっ!
何してんだよコイツ。勢いよくかき混ぜやがった。おい、納豆じゃあるまいし。 あらあらあら、まるでトロロじゃないか。何てデリカシーのなさだ。これじゃ台無しさ。おいおい、端から焦げてきてるぜ。あらら、慌てて食いついてら。ははははははは。ヤケドしてやがる。馬鹿め。
ふっ、いさみ足だったな鉄砲洲。
僕らは男を無視して再び戦いの場へと戻った。時折り男は卑屈そうな笑みを浮かべて話かけてくるけど、もちろんお呼びじゃないさ。
「もんじゃを焼くのになあ」僕の口から思わず言葉が飛び出していた。
「流儀なんていらねえんだよ。こんなもんぶちまけてよ、ちょっと固まったら端の方から、喰うべし、喰うべし」
最早誰にも止められない。僕自信でさえも。
「喰うべし、喰うべし、喰うべし、喰うべし、口がヤケドしても、喰うべし、喰うべし、喰うべし」
その後は、もう絵に書いたような泥試合さ。シロカワなんて他の3匹の勢いに恐れをなして「僕、こんなに恐いのイヤだよ」とか言って先に帰ってしまうし、残った僕らは最後まで互いを認め合うことなく、戦い続けたんだ。
あれから僕らは口もきいていない。
市場人間養成講座 第1回(最終回)
この冬のパリコレでも注目されてる市場ファッションですが(ウソ)、そういえば築地に限らず銀座でも渋谷でも六本木でも街行く女の子はみんな長靴履いてますね。この勢いで、腹がけに手カギを提げた若者たちがクラブにあふれるなんて日も、もう近いかも!
そんなわけで、97年には大ブレイクを予感させる最新流行の市場人間、“イチバー”になりたいという皆さんのために、今日はアナタの市場人間度をチェックしてみましょう。
イチバー・チェック!!
Check1 長靴を3足以上持っている(仕事用・外出用・観賞用) (Yes
or No)
※これはもう基本中のキホン。長靴はイチバーの顔とも言うべきマストアイテム!
出来れば冷蔵庫用の鉄入長靴、就寝用のナイトウェア長靴、うどん打ち用の
讃岐長靴、なんてところも本格的ウロコ党なら揃えておきたいところです。
Check2 数字を言う時、思わず指が動いてしまう (Yes or No)
※イチバーは金額や数を手ヤリという手信号で相手に告げます。これがクセに
なり、日常的に数字が出ると自然に手が動くのがイチバーの特徴。
「シブヤの先、246をまっつぐに行って……」などと道順を説明するときも
“246” のところで思わず手が動いてたりします。
Check3 魚袋(蝋引)で帽子を作れる (Yes or No)
※イチバーは雨が降っても、傘なんてしゃれたものはさしません。鮮魚を入れる
袋(通称:蝋引)を折り曲げて帽子をつくり、頭に乗せればそれでOK。
実に便利なグッズです。お気に入りのチームマークを縫いつけて野球帽にし
たり、人口毛髪を一本ずつ植えてヅラにしたりと、その用途は無限ですが、
使用済の蝋引をかぶると、たいそう生臭い人になるので注意。
Check4 ニワトリよりも早起きだ (Yes or No)
※世間で朝イチといえば、せいぜい6時とかですが、イチバーの朝イチは午前
2時です。そのため午後7時以降は眠くて起きてられません。長年の早起きが
身についた熟練イチバーは、夕方、植木に水をくれるとすぐに寝ます。
ですから、NHK7時のニュースを最後まで観たことはなく、「火サス」の犯人
だって分からないままだし、いちど「鬼平犯科帳」を観てみたいと夢見るので
すが、それを果たせるイチバーはいないのです。
Check5 真冬でもTシャツ一枚でOKよ! (Yes or No)
※イチバーは“いさみ肌”をモットーとしますから、息も凍える真冬にもシャ
ツ一枚とか裸で歩き、「ああ、暑い」と額から汗をたらりと流してみせるのが
カタチというものです。もちろん、うだる暑さの真夏には、防寒衣をガッチリ
と着込み、「寒気がすらァ」とふるえてみたりするのも一興ですね。
Check6 「あきないのしやわせ」の意味が分かる (Yes or No)
※魚河岸では値段を符牒で通しますから、イチバーたるもの、符牒には精通し
なければなりません。「あい、魚○さん、きや〜」「あいよ!」みたいに何だ
か分からない言葉を操るバイリンガル性が必要とされます。
Check7 ヨ○モトに指定席がある (Yes or No)
※魚河岸のオアシス「ヨネ○ト・コーヒー」。江戸時代の“浮世風呂”のような
情報交換の場でもあり、仕事上がりにはここに寄って、気のいいマスターに、
「売れねえよ」とつぶやくのが、やはりイチバーの日課でございましょう。
Check8 マイ・ターレを持っている (Yes or No)
※360°転回可能の自動三輪車タ−レ。これを自在に乗りこなす
のは、もちろんイチバーの必須技能でございますが、近頃じゃ自家用車として、
通勤から買い物まで乗り回すターレ野郎が巷にあふれ、どこへ行っても高公害・
高騒音・低効率のターレが動き回って、非常に邪魔だと、ついに社会問題にまで
発展、したら面白いです。
Check9 聖路加ガーデンを見ると無性にバンジージャンプしたくなる (Yes
or No)
※いや、別に意味はないんですがね。
Check10 おサカナの唄を3番まで歌えて、しかも踊れる (Yes or
No)
※「♪サカナ・サカナ・サカナ〜」という呪術的な調子が、やけに耳に残るこ
の歌を、完璧に歌えて踊れることは、魚食普及を広めるイチバーの義務ともいえ
ますが、出来るなら毎朝ラジオ体操がわりに みんなでセリ台の上で、
「♪サカナ・サカナ……」と踊るのも宗教みたいで微笑ましいですね。
では、診断してみましょう!
チェック数3以下 正常
残念ながら、アナタにはイチバーの素質はないようですね。市場人間失格です。でも人
間としてはむしろ合格なので、このまま市場とはかかわらずに順調な人生を送ってくだ
さい。
チェック数4〜6 やや異常
これはアナタ、なかなか見込みがありますよ。こうなったら毎日市場へ来て、とにかく
義務として来て、いっそ魚屋に就職などしちゃって、さらなる研究を重ねるべきです。
チェック数7〜9 立派に異常
いやはや、これはもう立派な市場人間といってもさしつかえないでしょう。顔もどこと
なく魚じみて見えますね。こうなればもう一人前です。しかし油断は禁物でございます
から、より上級者を目指して日々精進、たゆまざる切磋琢磨を望みます。
10点満点 とんでもなく異常
ああ、アナタこそまさに市場人間のカガミ、真のイチバーにちがいありません。こんな
完璧な人物は見たことない。こりゃもう市場より表彰状を送るとともに、その栄冠を永
く語り継いだりすべきだと思います。
足立のダチ
「UFOを見たんだ」
なんて言う人がいても、あまり本気にしないよね。きっと見間違えだろうくらいに思ってさ。特にそいつが足立区に住んでる奴なら、まず、絶対に信用されることはない。
いや、実は足立区の友人がUFOを見たって言うんだけどさ、緑色の物体が北千住上空に浮かんでたんだ、かれは真剣に語るんだけど、誰一人信じてくれないんだよ。
「足立区なんかにUFOが来るワケないじゃん」
「目の前をバッタでも横切ったんじゃないの。だって足立区でしょ」
みんな小バカにするんだって。
実はね、僕も子どもの頃に足立区に住んでたからよく分かるんだけどさ、そりゃバッタでしょ。だってUFOは一度も見たことなかったけど、バッタは毎日のように見たもの。緑色の物体ならバッタ以外に考えられない。
それでだね、まあ、UFOはともかくとして、やっぱし足立区っていまだにバカにされんだな、てね。つくづく思うわけだ。
僕もよく言われたものさ。
「え、足立区って東京なの?」
「あそこって何、電気とか通ってんの?」
まさに、足立区は人にあらずってな言われ方されたんだよ。
これがさ、港区とか中央区の奴に言われるならまだわかる。ところが、草加在住だとか行徳出身だとか、つい4ケ月前に愛媛県から上京しましたなんて、みかん顔した野郎までがしたり顔で「足立区ってダセエよな」なんて言うんだからどうかと思うね。だって草加なんてのは煎餅焼いてりゃいいし、行徳って地べたが塩で出来てるワケだろ。愛媛県なんて愛知県とよく区別できないしな。
それにさ、足立区ってイメージは悪いけど、人が思うほどは未開の地ってわけでも秘境ってほどでもなかったよ。そらまあ、確かに田舎ではあったけどね。でも電気はいちおう通じていたし、新聞だって一週間遅れでちゃんと届いたさ。物資の供給も物々交換とかあるから、困ったことはなかったね。道がなくても、荒野を人が踏みしめ踏みしめ開いていったし、何しろ電話なんかいらないんだ。見晴らしが良いから、大声で呼ぶか、ノロシでも上げれば、ちゃんと通じるんだよ。
あとさあ、毎年のように青大将に噛まれたり、野井戸に落ちるガキは後を絶たなかったとかね、ちょっと行くと牧場があって、牛乳飲ませてもらったり、あちこちに沼があって、隣り町へ買い物に行くのにイカダを使わなきゃ渡れなかったりもしたな。
でもさ、冬の澄んだ朝には、葱坊主の畑の向こうにボンヤリとね、東京タワーが見えたんだよ。そう、そんな時には実感したもんさ。
「ああ、ここは東京なんだ」
氷の世界
コ・ン・チ・ワ
メ・カ・ジ・キ・ダ・ヨ……ブルブルブル!
今日は市場内の超低温冷蔵庫に来てるんだ。超低温。コギャルのように、ちょっとやな口もと作りながら「チョー
テーオン!」っていうのがワリと正しい発音だ。
マイナス40度、寒いぞお〜。南極越冬隊員たちはこんな心持ちだろうか。なんか紅白に電報打ちたい気分……
「チョーテーオン!」
マイナス40度ではバナナで釘が打てます……実は持ってきてるんだよね、バナナ。ああ、うまい具合にここに釘があるし。一度やってみたかったんだ。これ。
コンコン、ベショッ。……何だ打てねえじゃん。だめだ。食っちまおう。フガフグ。
うん、食べるにはちょうど良いくらいに冷えてるぞ。
「チョーテーオン!」
ここで仕事をしてると、いつのまにか身体が凍ってカチンコチンになってくるのさ。昔、ここで若い衆が二人で仕事してたんだが、そん時、ちょっとしたことから喧嘩になっちまった。これが超低温だってのを忘れて、思いきり殴り合ったもんだから、二人とも粉々に砕け散っちゃった……という話は、もちろん嘘さ。
「チョーテーオン!」
ブルブルブルブル……! おっと、冷凍カジキにならないうちに退散しようっと。
じゃあまたね……
「チョーテーオン!」
バッセンの鬼
オッス! メカジキだ!
今回は気合いの入り方が違うぞ。何しろバッティングセンターに今年の初打ちに出かけるところだからな。格好だって気合いが入っちょる。ちゃんとユニフォーム着て帽子被って、バットケース持って、スパイクも穿いちゃうよ。カチャッカチャッとな。
カチャカチャカチャ……
あれっ混んでるぞ。なんだよ130`並んでるじゃねえか。ちっ。仕方ねえな。100`か、こんなスピードじゃあ冗談だぜ。ま、いいや。
さて、バット出してと、フン、金属バットなんて、あんなもん高校生じゃあるまいし使えるかよ。
200円てのも、よく考えりゃ高えよな、オーッと! バカヤロウ! 構えねえうちから投げんじゃねえ! よっこらせ、よし! スカッ あれっ? あいよ スカッ あれ? スカッ! ほい カキィィィィィーン!
どうだいこれだよこれ!
……何だよ! ガキ! こっち見てんじゃねえよ。あっちのゲームコーナー行って「鉄拳3」でもやってろ。
クワァァァーン!
おい、どうだい、ホームランだよ! 的に当たったぞ。景品は何だ ……おい こら! そこのバイトの人! ちゃんと見てんのかよ。 んっ……何だ、はり紙があるぞ、「ホームラン打った人は手を上げて下さい」だって……ハーイ!……。
バカヤロウ! やっぱり見てねえじゃんか! ガキ! 笑ってんじゃねえぞ。
アウッ!
イッテェ〜、何だよ、このバッセン、デッドボールありかよ〜!!
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