天国から来たマグロ 第8回
♪ジャッジャ〜ン!
“現代の驚異スペシャル!”
大げさなファンファーレと共に番組が始まると、軽薄そうな司会者がやおら早口でまくしたてるのだった。
「これまで我々は科学では解明されない謎を追い求めてきました。雪男、ネッシー、吸血鬼伝説、口裂け女、そして人面犬など。しかし、その真の姿を確かめたものは誰もおりません。それらは科学万能の現代に我々が夢見た伝説だったのでしょうか。しかし今夜、このスタジオにはその伝説の世界から使者がやってきました。まさに今世紀最後の謎!
現代の奇跡! では、ご紹介しましょう!人間の言葉を話すマグロです!」
カメラが切り換わり、突然映し出されたのは、ご存知、マグロのケン太である。
「えー、私がただ今ご紹介にあずかった言葉を話すマグロです。築地市場でマグロ屋をやってます。好物はマグロです。趣味はしりとりで……」
その瞬間、スタジオ内はおおーっという驚愕の声と共に騒然となった。興奮したゲストたちは口々に訳の分からぬことをわめく。
「まさに奇跡のマグロです。ええ、奇跡ですとも」司会者が何度もくりかえす。
「あな恐ろしや。この者にはマグロの霊が……いや、このマグロには人間の霊が憑いておる」霊媒師がうめく。
「これだけのマグロなら、キロ1万はしますわな」料理研究家が感心する。
「インチキだ。皆、躍らされてるのだ!この世はマスコミが作り上げた虚像の世界なのだ。みんなニセモノだ。この私だけが本物なのだ!」社会学者が怒号する。
「私は知りたい。この不可思議なマグロの細胞構造がどうなっているのか!」
突然、生物学者が大包丁をふりあげて、ケン太に向かってきた。
「キミの細胞を分けてくれ! その頭の部分をちょっとだけでいい!」
「じょ、冗談じゃねえや!」
驚いて逃げ回るケン太。生物学者は包丁をぶるんぶるん振り回しながら追いかけてくる。それを止めに入る人々が入り乱れて、いやもう、スタジオは大変な騒ぎである。
「もう、テレビなんて絶対に出ないからな!」
「てっきりアニキはタレントになるんだと思ったよ」
「ヒロスエのサインをくれるって言うんで、つい、それにつられて出ちまったのさ」
オレにはやっぱりマグロ屋が一番だぜ、などと言いながら、ケン太がいつものように仕事をしていると、「ごめん下さい」とたずねる者がある。見ると一人の小柄な中年男で、身体に似つかわぬ大きなスーツケースを抱えていた。
「私はこういう者で」と差し出した名刺には、
“十三製薬研究室 室長 丘丘十郎”とあった。
「製薬会社の人がオレに何の用だい」
「はい、実はアナタ様のお力添えで人類永遠の夢をかなえたく存じます」
丘丘十郎と名乗る男は重々しく言った。(つづく)
天国から来たマグロ 第9回
「かねてより私共はマグロが豊富に持つDHAに注目して参りました。ご存知のようにDHAには脳の働きを活発にする作用があります。私共はこのDHAを特殊技術により抽出培養した頭の良くなる薬、いわば天才薬の開発にとりかかったのです。ところが、どうしたことでありましょうか、どのような製法によっても、かんばしい成果を得ることが出来ませんでした。実験の結果、服用しても頭がマグロ以上には良くならないのです。そうして私共の研究も暗礁に乗り上げたかに見えました。しかしそんな折、テレビでアナタ様を拝見し、この研究を成就させてくれるのはこの方しかいないと確信しました。失礼ではありますが、マグロが人語を使うというのも、アナタ様が大変に上等なDHAを持っているからに違いありません。そこで、私共にぜひその素晴らしいDHAをお分けいただきたいのです!」
丘丘十郎という男は一気に話すと、「すみません、水を一杯下さい」と言った。
「それで、具体的にオレにどうしろって言うんだい」とケン太。
「少しばかり血液を頂きたいのです!」
丘丘十郎はゴクッと水を飲み干すと、スーツケースからうやうやしく、馬にするような巨大な注射器を取り出して言った。
「あんまり痛くしませんから」
「ちょっ、ちょっと待った! オレは注射はでえきれえなんだ」
「もちろんタダとは申しません。この注射器一本の血液を頂いたお礼として一千万円ほど用意してあります」
「い、いっせんまんえん!」
ケン太はうわずった声で叫んだ。
「おい、ケンジ。いっ、一千万あったら、iMacが何台買えるだろう?」
「え? さ、さあ、そうだな、5台くらい……買えるかもな……」
「何だと! 5台も買えるか! よし、じゃあオレはのったぞ! 血ィくらいくれてやるぜ!」
「あ、ご協力いただけますか! じゃあ、採血いたしますので、お尻をだして下さい」
「えーっ、いくらオレでも人前で尻は出せねえよ。よし、その注射器を貸せよ。ちょっくら店の裏に行って自分で取ってくるから」
そういうとケン太は馬の注射を抱えて店の裏へと出ていった。
「さてと、いくら金のためとはいえ、注射なんてまっぴらだな……」
ケン太が迷っていると、そこにハゲでセリ人のキンゾウが通りかかった。
「おい、ハゲ!」
「何だよ、マグロなんかにハゲ呼ばわりされたくないね」
「いや、すまんすまん。ところで知ってるか? マグロのDHAはすごい育毛効果があるんだぜ。どうだい、少しオレを食わせてやろうか?」
「え、ホント? 食べさして食べさして食べさして食べさして食べさしてください!」
「おっと、タダというわけにはいかないぜ。オレを食わせてやるかわりにお前の血液を貰うからな。いいから、ちょっとケツを出せよ。うわっ、きたねえケツだな……ズブリッ!」
「あ、ああっ……」キンゾウは何故か歓喜の声を上げた。ソレソレソレ、とケン太はどんどん血を吸い上げる。やがて注射器に満タンの血を採ると、キンゾウはしぼんだ抜けがらになってしまった。
“人類の夢ここにかなう!
天才になる薬 ラグアイバ ついに誕生!”
飲むだけでIQが50上がるというふれこみで薬は発売された。その反響たるや、すさまじいもので、人々は我先にと争ってこれを服用した。しかし、ほどなくそれが真っ赤なニセモノであることが発覚したのだ。アタマが良くなるどころか、飲んだ人々が次々にハゲあたまになってしまったのである。夢の天才薬は実は恐怖のハゲ薬であり、人々を恐怖のどん底にたたきおとすのであった。
そうして、世間が薬の副作用で大騒ぎしている頃、ケン太はフルーツカラーのiMac全種類を部屋に並べて、ひとり悦に入っていた。(つづく)
天国から来たマグロ 第10回
<バカ指定>
この文章には目を覆いたくなるような残虐な描写や、人のやる気をなくす、くだらない表現が含まれています。小さいお子様はお母さんによく聞いてから読みましょう。
「オレはガンかもしれねえ」
食事の最中にケン太は真顔で言ったので、ケンジは吹き出しそうになった。
「マグロがガンにかかるなんて話はきいたことないぜ」
「いや、どうにも最近胃の調子が悪いんだ。これはきっと悪性の腫瘍にちがいない。それに肺も何だかおかしい。息苦しい気がする。これは肺ガンかもしれんな。さらに頭がふらふらすにいたっては脳腫瘍の疑いもあるぞ……」
「別にガンだっていいじゃないか」
「おいケンジ、お前、兄が心配じゃねえのか。オレがガンの恐怖にさいなまれているのに」
「だってアニキはいちど死んでるんだろ。なら何も恐がることないじゃないか」
「お前は死んだことないからそんなこと言えるんだ。一度死ぬとなあ、二度とは死にたくなくなるもんだよ。命を粗末にするのは死んだことない奴のすることだぜ。ま、とにかくオレは明日、がんセンターに行ってくるからな!」
「つまりその……アナタがガンの検診を受けたいと、こういうわけですね」
突然、診察に訪れたマグロに驚きながら医師は言った。
「私どもはマグロの診断はしたことがないのですが……ま、いいでしょう。ああ、君、この方をレントゲン室へお連れしてCTを撮って、そう、5センチ間隔の輪切りで」
「はい、かしこまりました輪切りですね! レントゲン技師はケン太を寝台に乗せると、レントゲン室に連れていった。
ああ、もしもガンだったらどうしよう……寝台の上でケン太はびくびくしている。あれ? でも、ここでレントゲンを撮るのかな。何か食器とか包丁がたくさん並んでるぞ。どうみてもここはレントゲン室ではなく厨房である。
どうやら技師は間違えて彼を病院の給食室に連れてきてしまったようだ。
「おい、本当にあんな大きいマグロを5センチの輪切りにするのか!」
「こんなもの今日の献立にはなかったはずだがな……」
部屋の隅で調理人たちが二の足を踏んでいると、そこに謎の中国人コックが現れた。
「ホホホホホ!心配ないあるよ。ワタシこの剣をふる、マクロ真っ二つよろし!」
謎の中国人コックは巨大なダンビラをガチャガチャ言わせると、
「キャホホホホーッ!」と奇声を上げて寝台の上のケン太に躍りかかった。
「おーっと、危ねえ!」
すんでのところでケン太が飛びのくと、巨大なダンビラが寝台を真っ二つにした。
「ホホホ!マクロ逃けるよくないな。おとなしく切られるよろし」
「こんな事だと思った! 毎回このシリーズに出てると話の展開が大体読めてくるぜ」
ケン太は慌てて逃げて行ってしまった。
気が収まらないのは謎の中国人コック、ダンビラを振り回し他の料理人に向かって行く。
「ホーホホホ!仕方ないから、みんなをパラパラにして、美味しい料理をつくるよ!」
キャホホホホーッ! ズバッ!ドバッ!
彼は手早く肉を分けると、大鍋に火をかけ、そのままグツグツと3昼夜。そうしてやっと出来上がったのが、この命のスープ。これをあらかじめ塩漬けにした臓物と共に……
どうやら昨晩観たビデオ「人肉饅頭」の影響をもろに受けてしまったようで……。
もはや本編とは関係のない方向に進んでいるので、これで終わりにします。
天国から来たマグロ 第11回
ヒュゥゥゥゥゥ……
「うー、さぶっ。こんな日は早く帰って、ネギと一緒に風呂ン中に飛び込んで、自分がネギマになってしまいたい気分だぜ……おや」
ケン太が冷たい北風を受けて身をちぢこめながらセリ場を歩いていると、目の前に大きな財布が落ちているではないか。
「見っけ!」
彼は周囲を見回してから、さっそく拾おうとしたが、サッと財布は逃げた。あれ、何で逃げるの? ひょい、サッ、あれ? 逃げるなよ、ひょい、サッ……ケン太は一心不乱に追いかけるが、財布はスルスルと空中に上がったかと思ったら、誰かの懐中にスルッと入り込んだ。
「ふ、こんな古典的な手を使うオレもオレだが、それに引っかかる奴は本物のバカよのお」
着流しに二本差し、どこから見ても時代劇の素浪人という風体のその男は、
「そうよ、前回キサマに黒コゲにされた、武芸の達人、岡田以蔵よ」
「お前もしつこいね。また登場したの?」
「黙れ! 今日という今日はキサマを真っ二つにしてくれる! そこへ直れ!」
「おい、待ってくれ! こう毎回命の危機にさらされたんじゃ、オレもたまらない」
「ざれ言はそこまでだ! 覚悟しろ!」
「ちょ、ちょっと、やめろ、いや、やめて下さい。もう何でもするから、ご勘弁をーっ!」
「往生際が悪いぞ! いざ!」
「助けて助けて助けて…… あー、助けて、ヒロスエに逢わせてあげるからお願い助けて!」
「何!」以蔵の切っ先がぴたりと止まった。
「それはマコトであろうな!」
「本当にこんな所に“ひろすえ”なる者がおるというのか?」
以蔵はケン太に先導されて卸売場を歩きながら言った。
「もしも嘘であったら、その場でキサマを八つ裂きにし、生醤油つけて食ってくれるぞ!」
「嘘じゃないよ。ほら、そこの活けもの屋の中にオヤジがいるだろ、あれがヒロスエ……」
「何ィ、このたわけ者が! 言うにことかいてあんなオヤジが“ひろすえ”とは……ええー、そこに直れ、今、この場で成敗してくれる!」
「いや、待ってくれ、本当にあのオヤジがそうなんだよ。笑うとヒロスエに変身するんだ。おーい、コバちゃん! ちょっとこっち来て、また笑ってくれよ」
「ああ、何だ〜い」
活けもの屋のオヤジ、小林のコバちゃんは店先にでてくると、ニカッと笑った。
「あ・あ〜ん、ひろすえちゃん!」以蔵はいきなり相好をくずして甘えた声を出した。
何ということだろう。魚屋のオヤジがちょっと笑うだけで、人気アイドルとそっくり同じ顔になってしまうとは。これを怪奇といわずして何と言おう。
「ひ・ろ・す・え・ちゃ〜ん! オレ、写真集もCDも全部買ってるんだよお〜! ね・え・ひろす……あれ、何だよ、こら! よく見たらやっぱりオヤジじゃないか!」
「あ、コバちゃん、だめだよ。しばらくの間笑っててよ」
「え、こうかい、ニカニカニカ」
「あ・あ〜ん、ひろすえちゃん!」
以蔵は刀も投げ出して、コバちゃんにしだれかかった。
「早大合格おめでと! オレも行くもんね。マジで来年受験するもんね……」
ケン太はこのスキに逃げようとしたが、ふと見るとそこに以蔵の刀がころがっている。何の気なしにその刀を拾い上げると無性に誰かを斬りたい気持ちになった。
「まあ、ちょっとだけなら斬っても死にはしないだろう」
ケン太は刀を振り上げると、以蔵を背中の方から袈裟がけに斬った。
ズバッ! ズバッ! ザザザ!
「あー、斬り過ぎちまったい」
「斬り過ぎたってアンタ、この人、頭と胴体と泣き別れになってるよ」
「ま、武芸の達人だから、お湯でもかければ元に戻るんじゃねえかな」
「アナタいいかげんな人ね」
コバちゃんはヒロスエの顔で笑った。
「河岸の奴はみんないいかげんなのさ」
ケン太もマグロの顔で笑った。
なぜか角川博
ノックの音がしたのでドアを開けると、デップリと肥えた男が立っていて、「角川博事務所の者です」という。こんな寒い日なのに男は顔全体から汗が吹き出していて、しきりにハンカチでぬぐっている。
「実はステージの当日になって角川が突然の急病で倒れまして、困り果てておりましたところ、角川本人じきじきに貴方様に代役をお願い致したいと申すものですから、このように参上いたしました」
何だって、角川博の代役だなんてどういうわけだ。だいいち何で僕なんだ。
「だって貴方様は角川に瓜二つではありませんか」
そうだったけかな、僕は角川博に似てたかな。でもそう言われればそんな気もしてくる。そうだった僕は角川博似だっけ。ふいに横の鏡に目をやると、なるほど角川博そっくりだ。ていうか、この顔こそが角川博でなくて何だというのだろう。
「分かりました、ご一緒しましょう。しかし、僕はステージ衣装なんて持ってない。きちんとした服なんて礼服くらいですが」
「ああ、それで良いです。時間が押しておりますので、さっそく参りましょう」
喪服に身を包んだ僕は男と共に車に乗り込み、ステージ会場へと向かった。男は相変わらず汗を吹き出しながら後部座席をびしょびしょにしている。水分がだいぶ出たので当初会った時より小さくなったようだ。
「会場はどこにあるんです」
「どこって、NHKホールに決まってるじゃないですか。紅白歌合戦ですよ」
角川博って紅白に出るんだっけか、などと考えているうちに車は会場に入った。でもそこはNHKホールとはずいぶん違う、ちゃっちい建物で、あれ、これ僕の通った中学校だぞ。ステージだって体育館だし、前列には昔の同級生まで当時の顔のまま座っている。
「喜びも悲しみも幾霜月の想いは遥か印旛沼、歌うは角川博、曲は“総州沼地音頭〜”」
男のアナウンスと共に怪しげな伴奏が始まったので、ともかくも僕は歌い出した。歌っているうち、そういえば以前にもこんなことがあったっけと思った。中学の合唱コンクールで僕は独唱したのだった……
と思い当たったところで目が覚めた。荒唐無稽のわりにはディティールがしっかりしている夢だった。でもどうしても自分が歌った「総州沼地音頭」の節だけは残念ながら思い出せない。
鼻毛式築地原人
魚河岸人の特徴といえば、声が大きいとか、ガサツだとか、人情味があるとか、長靴をはいてるとかいろいろありますが、人類学的にみると鼻腔より鼻毛が5ミリ程度露出しているのが築地原人の特徴なのだそうです。腰に手ぬぐいぶら下げ、しきりに指を動かして金額を数えている人がいたら、きっと鼻毛が見えてますな。築地原人です。
いったい、築地原人は男女問わず皆鼻毛が長いです。空気が悪いのでしょうかね。始終動き回ってるターレの排気ガスのせいでしょうか。一説には、鼻毛を抜く(=他人をだしぬく)鼻毛を読まれる(=見くびられる)鼻毛をのばす(=女性に甘くする)という言葉が示すように、日常を具象化したものだといいますが、これはまあ眉ツバでしょう。
しかし何ですな、「おはよう」と挨拶したときにポヨ〜ンと鼻毛がのぞいてるなんてのは、なかなか愛嬌のあるものでございます。築地じゃあ皆鼻毛を見せ合いながら挨拶するんですよ。それが礼儀とされてます。ですから皆滅多に鼻毛を切りません。一生のうち3回切れば多い方でしょう。
やわらかな春の風を鼻毛に感じるのも築地原人ならではの感興深いものですが、それでも密生してくると、ちょっとまあ、切ろうかという気にもなりまして、鏡の前で鼻毛をつまんで伸ばしてる自分がいます。
切るといっても鼻毛切りなんて洒落たものはないし、ハサミだと鼻の粘膜を傷つける恐れがありますから、ここは電気カミソリでジョリバリと剃ってみたいものです。こう、鼻の穴にシェーバーをあてて、ちょっとハリソン・フォード風に片側の頬でニヤ〜ッと笑う心持ちでジョリジョリやるとよく剃れます。
ジョキ・ジョキ・ジョキ・ジャキッ!!
おっと、充電が弱かったのでシェーバーが鼻毛を噛んだまま停まってしまいました。しかし、これくらいのことで慌てていけません。速やかにコンセントをシェーバーに差し込んで充電を開始します。何か、鼻から自分自身に電気を送り込んでいるような図柄になりますし、しかも、そうしている間も鼻毛が引っ張られているのでハリソン・フォードを続けなければならない。妻には見られたくない姿です。
そろそろ充電完了でしょうか。スイッチを入れてみましょう……
ジャバラバリ!!
イテテテテテテテテテテテテテテテテテテテ!!
いや、まとめて抜けました。10本は抜けましたね。もう涙ポロポロです。
というわけで、今日は築地と鼻毛との深淵な関係についてお話いたしました。築地では誰もがこうして鼻毛と共生しているということをお分かりいただけたことと思います。どうもありがとう。
イメージ(上)
私たちは物事をイメージでとらえます。よく知らない事でも、これはこういうものだという決まった図柄を想像できます。しかし、それらは必ずしも確かなものではなく、いや、むしろ大抵は現実離れした、ありえないイメージだったりすることが多いようです。
たとえば「バナナの皮」といえば、誰もが「すべる」と連想するでしょう。道ばたにバナナの皮が落ちていれば、きっと誰かがそれを踏んで、足が頭より上がるくらい見事にひっくり返ることになっています。でも、よく考えてみれば、そんな光景を目にしたことなどないですよね。もし、そんなものを目撃したとしたら、それは宝くじに当るくらいのめずらしい体験かもしれません。
あるいは、今、あなたが登山道を歩いているとする。すると、“♪娘さんよく聞〜けよ、山男にゃ惚れるなよ……”などと楽しげにコーラスしながらやって来る山岳パーティにすれ違いますな。やあ、楽しい人たちだなあ、あなたは何気なしにやり過ごしてから、ふいにギョッとして後ろを振り返るはずです。
「何なんだ? 今の連中は……」
いったい、「山男の歌」を歌いながら山登りをする山岳部なんて、いまどき絶対にいるわけないのです。もしも、そんな集団を見たとしたら、それはやはり宝くじの確率か、あるいは白昼に山の幽霊に出会ったとしか言いようがありません。
観光シーズンともなれば、休暇をたっぷりと取って、ひなびた温泉などへ行ってみたいものです。そこで、“温泉”といえば“湯けむり”ですね。“湯けむり”といえば……そうです“殺人事件”に決まってます。“美人OL”であればなおさらです。しかし、まあ当然ですが、ひなびた温泉に美人OLなんているわけがないし、殺人事件など起こりません。せいぜい湯治に来たトメばあさんが入れ歯を湯殿に落として困ったというくらいでしょうか。
「みちのく湯けむり老婆入れ歯捜索事件」
誰がそんな事件にかかわりたいと思うでしょう。
まあ、こんなイメージはテレビや小説などからの影響で、本当はそんなものはないってことは誰でも分かるものですが、中には現実とかけ離れたイメージがあたかも本当にあるように思われているものもあります。
「魚河岸」がまさにそうですね(つづく)
イメージ(下)
威勢が良くていさみ肌、人情味あふれる江戸っ子、というのは「魚河岸」の登録商標みたいなもので、もうかれこれ三百年間もこの看板を掲げているわけでして、誰もが「魚河岸」といえばそんなイメージでとらえます。
だから「魚河岸」を歩いていると、
“おう、ちょいと、ごめんよ! ほら、どいた、どいた、どいたぁ!”
などと叫びながら人波わけて走っていく若い衆がいる、と思うでしょ。きっといるに違いないですよね、何しろ魚河岸なんだから。ところが、私かれこれ8年もここで仕事していますが、まだ一度もこんな一心太助野郎にはお目にかかったことないんですね、残念ながら。それにここじゃあ、「若い衆」というと大抵50過ぎですからね。威勢が良いといってもだいぶ趣きが違います。まあ、確かにここには一般社会とは隔絶したような面白いものがたくさんありまして、非常に奥深い。その奥深さを語り出したら枚挙にいとまがないわけですが、しかしそれは、いわゆる「魚河岸」のイメージとはちょっと違うんですよ。
では、違うのがいけないのか、といえば、全然そうじゃない。「魚河岸」は「新鮮な食材」を提供すると共に、このありもしない「イメージ」をも提供することで人を惹きつけているのではないか、と私は思いますね。
本当は一心太助もいて欲しいし、そこいら中でケンカとかやってたら面白いし、
“おう、いい鰆じゃねえか。さあ、持っていきやがれ、いくらでもいいぞ、呉れてやらあ!”なんて偏屈オヤジがたくさんいて欲しい。
でも、そんなものが本当にはなくても、あたかも「ある」ように思われたい。皆に“魚河岸て面白そうじゃん”と思ってもらいたい。だから市場の人々もちょっとだけ「魚河岸人」になりきってやってる部分もありますね。
“おれぁ曲がったこたぁでえきれえだ。気が短けえんだ。こちとら江戸っ子でい、ってほんとは山梨県人だがよ……”みたいなね。
結局、「魚河岸」のイメージに固執するのは市場の人間かもしれないなあ。
自分も「魚河岸」にいる以上、そんな「魚河岸のイメージ」が色褪せないように、なるべくなりきって、皆さんを騙したいな、などと、まあ、不遜にも考えたりするのです。
世界の車窓から「地下鉄日比谷線の旅」
世界の車窓から 今日は地下鉄日比谷線の朝をお送りします。
遠くシベリア鉄道から、あれやこれやと乗り継ぎ、列車は日比谷線へと進んできました。
「東銀座」を過ぎたあたりで大きなカーブにさしかかると、コキキ・カキキキキという不吉な音を立てながら車内がグラリと傾き、えもいわれぬ気持ちに襲われます。車窓からの景色はまるで真っ暗で何も見えません。
中目黒山脈から日比谷半島を経て北千住原野へと至る全長数十キロの長大な日比谷線は、様々な特徴を持つ原住民たちの生活の足として、朝夕などはひどく混み合います。
11月になると車内を漬物の臭いでいっぱいにする「べったら族」、ポロシャツにスラックスを標準的服装デバイスとする「ハバラー原人」、終電頃に車内に神秘的な吐瀉物地上絵を描くという「ナスカのシンバシ人」、こーんなに長い襟をスーツからはみだして、ローレックスやケイタイをぶら提げた狩猟民族「ポンギ族」は今夜もヒカリものオンナ狩りに余念がありません。なかでも特徴的なのが「ツキジ長靴族」と呼ばれる長靴を履き腰に手ぬぐいをぶら提げた種族です。
列車が「築地」駅に到着すると、「ツキジ長靴族」の集団が我先にと争うようにして改札口へと殺到します。押し合いへし合う人々が大きな玉となって階段を転げ落ちてくることもあります。なぜ、かれらはこのように急ぐのでしょう。それは魚市場の朝のセリ時間がせまっているからです。
「アー! ダー! チェキラチェキラ! ヨテッカクカタトッモ ピンマル! ハイ!
スズヨウ〜!」
セリ人のラップに乗って、魚は次々にセリ落とされ、すぐに小車で店頭に運ばれます。千件以上もの魚店が並んだ市場の朝は、すさまじい喧騒にあふれています。
人の良さそうな「長靴族」の人が近づいて来ました。
「おう! 呉れてやろう! いりふねのみたからあきないのしやわせはやおきふくのかみ、さあこんちくしょう! 持ってきやがれ!」
何だか判らないうちに、たいして欲しくもないのに魚を売りつけられてしまいました。しかも20キロも持たされて途方に暮れながら、列車の旅は進んで行くのです。
怪人シラス男の嘆き
悪の秘密結社ウオガショッカーは、世界征服をもくろみ、今日も幼稚園バスの襲撃などに余念がない。かれらは凶悪殺人犯やマッドサイエンティストたちをさらってきては、市場の新鮮な食材をかけ合わせて、凶悪な怪人を作り出し、世界を恐怖のるつぼへと陥れる。
今回は、史上最悪と恐れられる極悪レスラーを悪のアジトに連行し、恐怖の改造手術によって、最強凶悪な怪人を作り出すのだ。
「ガハハハハ! 我がウオガショッカーの悪の技術力の粋を結集してついに完成したぞ! さあ、現れ出でよ!
怪人シラス男よ!」
「シラース、シラース!! ……ちょっと、首領、あんまりじゃないですか。極悪レスラーの身体を使って何でこんな弱そうな怪人になっちゃうんですか。」
「うむ、不要な臓器等を取り除いていったらそうなったのだ。しかし、安心しろ、キサマのそのボディには最新の科学技術を施しておる」
「シラース、シラース!! ……最新の技術といったって、どこから見てもただのシラスじゃないですか。何もタイ男とかヒラメ男とか伊勢エビ男なんて高級怪人までは望まないけど、せいぜい、セイゴ男くらいにして欲しかったっすよ」
「たわけ! あれはフッコ男、スズキ男と変態する出世怪人、いわばエリートコースだ。身のほどをわきまえるが良い!」
「シラース、シラース!! ……そんなこと言わないで、頼みますよ。もう一度改造し直して下さいよお」
「うーむ、それほどまで言うなら仕方がない。よろしい、もう一度だけキサマを改造してやる!」
「ガハハハハ! 我がウオガショッカーの最悪の技術力を再度集めてまたも完成したぞ! さあ、現れ出でよ! 怪人チリメン男よ!」
「ジャコーゥ、ジャコーゥ!! ……って、これじゃあ大して変わってないじゃないですか。いや、むしろ前よりヒドイ。身体が干からびてパリパリする……」
「ええい、うるさい! ツベコベ抜かすと黒戦闘員に格下げだぞ! 向こうへ行って大根おろしの上にでも寝ていろ! では皆の者、よおっく聞けい。これからいよいよ“マグロせり台パラパラ作戦”*
を開始する!」
*マグロせり台パラパラ作戦とは?
マグロ屋のオヤジに化けたウオガショッカー怪人がせり台の上でパラパラを踊り、
魚河岸をクラブ化してしまうという世にも恐ろしい作戦である。
「しかし、作戦開始の前に腹ごしらえをしておく! これより場内“中栄”に辛口インドカレーを喰いに行くので一緒に行く者は声を上げろ!」
「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」
「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」「イーッ」
「イーッ」「イーッ」
「では、出撃―ッ!!」
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