二元同時中継でコンニチハ

 やあこんにちは、僕はメカジキだよ。
 しばらくウダウダしてたんで更新もノビノビだったんだけど、ある日ヘンリー蛤がやって来て、
 「どの角度から見てもヒマそうだね」と言う。
 「いや、それほどでも…」
 「"新カジキの気持"がいつまでも準備中のままだな!」

 というわけで、たいしてネタがたまってないですけどお、今日からふたたびコラムを書くこととなりました。どうぞよろしく。
 さて、連載再開を記念して、今回は築地場外市場の人気HP「築地魚河岸」とのサイト二元同時中継でお送りいたします。一体なんのことじゃい? とお思いの皆さま、ココをクリックしてみて下さい。
          ↓
       コ コ

  …はい、いかがでしょうか。
 こちらが只今申し上げましたHP「魚河岸野郎」の「コラム」コーナーでございます。
  ここは魚河岸の歴史と文化を面白楽しく紹介するページでありまして、まだ始めて半年の新米サイトでございますが、これからどんどん充実してまいりますので、また機会があったら覗いてみて下さいね。

 では「築地魚河岸」からお越しの皆さんはここらで戻りましょうかね。
  コチラをクリックして下さい。
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       コ チ ラ

 さて、今回は業界初のサイト二元中継でゴージャスにやってみました。でもこれってよく考えれば、ていうか考えなくても、単なるネタのつかい回しなんですけど、まあ、「魚河岸野郎」、「築地魚河岸」ともによろしくってことで!



バクバク

 「やあみんな! はじめまして。ボクの名前はバクバクだよ。何でも食べちゃうからバクバク。今日からメカジキさんに代わってボク・メインでいきたいと思うのでよろしくな! でぇ、メカさんは職場の先輩なんだけど、何しろボクはあの人よりずっと若いし、独身だしぃ、育ちもいいしぃ、顔だってこのように…」
 「おい、いきなり登場して口数が多いぞ。自己紹介はもっとコンパクトにしろ。コ・ム・パ・ク・トにな。それに何だ、ボク・メインてのは」
 「まあ気にしない。何しろボクはメカさんの事を尊敬しちゃってるんだから。かわいい後輩のことをこれから良く引き立てろよな!」
 「"よな!"じゃねえだろ"よな!"じゃ。何が尊敬してるだ…おい! キサマここに置いといたガーナチョコ食ったろ!?」
 「あ、いただきました。美味しゅうございました。そっとプレゼントをくれる先輩のあたたかい心づかいみたいな」
 「ばかやろう! おめえにやったんじゃねえ。オレはチョコ依存症でチョコなしには生きていけねえんだ。しかもガーナは昔からあるし、まろやかな味だし、増量75gがうれしいし、今まさに満を辞して食わんとするところを…」
 「あー、そんな細かいことに目くじらたてないの。先輩なんだから、もっとドッシリ構えて気前良くしなきゃダメだぞ」
 「だから"だぞ"じゃねえだろっての。もっと目上の者を敬わんといかんぞ…ところで、バクバク! お前わりと河岸の中に顔広いから、これからどんどんネタを拾ってきて、オレにしっかり報告するんだぞ」
 「へ〜い、分かりやした。ネタ枯れのメカさんのお役に立てればバクバクも本望ですよ。おや、メカさんどこへ行くの?」
 「チョコが切れたからコンビニに買出しに行くんだ」
 「あ、じゃあついでにパン買ってきてくれませんかね?」
 「オレはパシリかっての! 調子に乗りやがって。あれだろ、いつもの"やきそばパン"でいいの?」
 「そうだよ」



何しろ魚河岸直送の

 「はいよー、ゴメンよー。ちょいと通してね。ちょっと・・・おい、通してくれってんだよ。おら! 危ねえじゃねえか、このボケッ!」
 「おいバクバク、ターレはもちっと静かに運転しろ。セーフティクルーズで行っちゃってくれよ」
 「そんなこと言ったって、メカさんが"チョコ買うからコンビニまで乗せてけ"なんて言うから遠回りして渋滞に巻き込まれたんじゃないか。本当ならとっくに仕事場に戻ってる時間なのに」
 「ま、慌てない慌てない。遠回りでもいいからどんどん空いてる方へ行けよ。そうそう、どんどん行け・・・おーっと危ねえ! おい、おめえの運転は実に乱暴だ。オレが代わってやろう」
 「ダメだよ、アンタは2台もターレをオシャカにして始末書書いてたじゃないか。主任から"絶対にアイツにだけは運転させるな"って釘さされてんだからね」
 「そうやって人の古傷にふれるんじゃねえよ。たかが岸壁に激突して荷台吹っ飛ばしたのと、トラックに突っ込んで大破させたのと、それだけだろが。このオレさまがピンピンしてんだから、それでいいんだ・・・おい、いくら遠回りっても、何かとんでもないとこへ来ちまったぞ。何だ、"明石町"とか書いてあるじゃねえか」
 「だって、どの道行っても混んでんだもん。いったいどうなってんだろうね、今日の渋滞は」
 「よし、ちょいとここらで一服しようぜ」

 そうして僕らがターレを停めて休んでいると、ふいに主婦と覚わしき人がこちらに声をかけてきた。
 「ちょっとお兄さんたち。市場の人でしょ。そこにあるの何? マグロ? ちょっと見せて・・・ふうん。品は良いわねェ。ちょっと、これいくら?」
 「へ!?」
 「だからいくらで売ってくれるのヨ」
 「いくらって、買うのお!? ・・・おい、この奥さん買うって言ってるよ。どうする・・・え、売っちゃう? マジかよ。いくらで、リャンコ? あ、そ・・・えー、2千円でございます!」
 「2千円!? 高いわヨ! ちょっと千円にしときなさいよ。そのかわり全部売ってあげるからさ・・・ちょっとー! 田中の奥さん、こっちでマグロの即売やってるわよ! 安いわよ! あ、伊藤さんも、平井さんも、高井さんもいらっしゃいよ、マグロ千円よ!」
 「ありゃありゃ、集って来ちゃったよ。どうする・・・ま、いいか。よし!決めた! 売っちまえ・・・さあ! 本日限りのマグロの大特売だよおー! 早く来ないと売れちゃうよー! 本日河岸に揚がったばかりの新鮮マグロでござい」
 「新鮮って、これ凍ってるじゃないのよお」
 「ええ、そうなんです、凍ったままやって来ました。何しろ魚河岸直送ですから味は保証付ですぜ」
 「ちょっと、こっち2つちょうだい!」
 「私は3つよ!」
 「へへー! おありがとうござい!」

 「がはははは! どうだいみんな売っちまったよ。さっぱりしたね」
 「でもさ・・・」
 「でもじゃねえよ。向こうは安く買う、こちらはアニキを処分出来るで万事OKじゃん。いや、自分の隠れた商才に自らが驚かされてしまいました」
 「あのさ、売ったのはいいんだけど・・・するとボクらはもういちど冷蔵庫へマグロ取りに行かなくちゃいけないってことだよね。あの渋滞を抜けて。いちからやり直しで・・・」
 「・・・あーっ!!」


創作マグロ料理の巻

 ♪タララッタタタタ、タララッタタタタ、タララッタタタタタタ、タ、タ、タ
   タララッタッタ、タララッタタタタ、タララッタタタタ、タタタタタ
   タララッタッタ、タララッタタタタ、タ、タ、タッタラタララッタ!

 「さあ、やけに長いイントロと共に"魚河岸料理教室"のお時間がまいりました!」
 「本日は今朝河岸に揚がったばかりの新鮮なマグロをですね、ふんだんに使った創作料理などお届けしましょう」
 「ていうか先生、どう考えてもマグロはそのまま食べた方がうまいんじゃないでしょうか?」
 「チッチッ、助手バクバクよ。君はまだこのシリーズの趣旨が分かっていないようだね。いいかね、マグロ業界に籍を置く我々としては、つねに前進あるのみ! プログレッシヴな精神で魚食普及に努めねばならんのだな」
 「プログレッシヴねえ…」
 「そこで、簡単・美味しい・目新しいと、三拍子そろったマグロ創作料理を提案し、食卓へのマグロ普及に大きく貢献でもしようかと」
 「で、これが創作料理? 何か、いやあな予感するんですけど…」
 「はい、そうです。もうこちらに出来てるんですね。まず最初にご紹介するのがこれ。新食感"生マグロサンド"でございます」
 「うえーって感じ。でも、一応その、作り方というのはどのようになっているので?」
 「まずマグロを薄く切ります。それをパンではさみます。以上。」
 「あ、ではこの赤いのは、ジャムじゃなくて血なんですね」
 「お口のなかでマッタリと溶ろけるジュージーな味わいがえもいわれぬ風味を…あ゛、アンタ本当に食べるの?」
 「う、うめえ! 信じられんが、食ってみると何だかスゲエうめえ!!」

 「というわけで、次の料理はこちらですね」
 「何だか、やけに棒状ですね…え、"マグロ棒"っていうんですか?」
 「こいつはですね、細長く切ったマグロを油で素揚げにする。砂糖をまぶす。以上。」
 「ははあ、するとこれ、お菓子みたいなものなんですね」
 「見た目が油っぽく、口当たりが実に油っこく、後味がまさに油そのもの。マグロの脂と食用油とのコラボレーションがまさに…いかがです、お味の方は?」
 「うわあ、こいつもまた、やたらにうめえや!」

 「お次はこちら。新感覚健康飲料"寿司ジュース"でございます」
 「もう名前聞いただけで、すごい気持ち悪いんですけどお…どうやったらこうなっちゃうの?」
 「マグロと酢飯とサビとガリとお茶をミキサーにぶちこむ。スイッチを入れる。以上。」
 「なぜか色合いがショッキングピンクしてます」
 「ゴキュゴキュッと寿司を飲み干す新コンセプトがアーバンな人々の琴線を強引につくこと請け合いの…どうでしょうか?」
 「たは〜っ、こいつはやられたね! まるで本物を食ってるみたいぃ。うまい! 三重マル!」

 「最後にご紹介するのがこの"マグロごはん"ですね」
 「あ、これ、お赤飯みたいですねえ。」
 「これはですね、お米をとぐ。ザク切りマグロを入れる。炊く。以上。」
 「ありゃりゃ、マグロが真っ白くなっちゃってますよ」
 「海の幸と里の恵みとの美しき邂逅、まさに日本人の心に染み入るハイブリットな味わいに、思わずここで歌が入っちゃいますな。 ♪うさぎお〜いし、かのやまぁ〜」
 「ゲロうま〜っ! 死ぬほどうめえ! ていうか、もう死にたい感じ、ウヒョーッ!!」

 「というわけでアイデアひとつで出来る季節のマグロ料理。皆さんもご家庭で試してみてはいかがでしょう?」
 「うんと気持ち悪いので、胃薬もお忘れなく。 ではまた来週!」

 ♪タララッタタタタ、タララッタタタタ、タララッタタタタタタ…



怒られる人 怒られない人

 活け物屋のコウちゃんは、この冬に市場に入ったばかりの新人で、魚をさわる手も覚つかないほんの一年坊主なんです。だからかれに対しては先輩たちの容赦ない叱咤が飛びます。
 「ばかやろう、そんなふうに魚をつかむな!」
 「馬鹿野郎! 刃物使ってる横に立つんじゃねえ!」
 「バカヤロウ! ウロウロするねえ!」
 あんまり何でも「バカやろう」と言われるんで、コウちゃん、「ボクは本当にバカなのか!」って頭をかかえちゃって、店の裏でいつも泣いているんです。かわいそうなコウちゃん。
 でもさ、君に見込みがあるから、みんな叱るんだぜ。「ばかやろう」って、ありゃ君のこと応援して言ってるようなもんさ。何年かたって君が一人前の魚河岸人になったら分かるだろうけどね。

 「いいねえ若者というものは。未来があって・・・」
 「メカさん、言ってることが何かスゲエじじい臭いっすよ」
 「うむ、オイラは若い頃から老成してるからな。はたちの頃にはすでに老人のようだったし」
 「そりゃ妖怪だ!」
 「分かってねえな。落ちつきがあったってんだよ。オイラなんざ、河岸に来てからこっち、一回も怒られたことねえんだからな。この魚河岸でだよ、一度も怒られなかったって、こりゃおめえ、いかにオイラが初めから完成度が高かったということだな・・・」
 「あの、ちょっといいですか」
 「何だ」
 「あのね、メカさんがなぜ怒られないかっていうとお、これボクが言うんじゃないですよ、他の人の言葉だからね・・・"メカジキに何か言ってもムダだ。あんなやる気のない野郎は見たことない"」
 「なにい!」
 「あ、それからこんなことも言ってたよ。ボクが入社したときにね、"メカジキとは付き合うなよ。労働意欲をそがれるからな"と・・・あれ、気を悪くした?」
 「・・・・・・」
 「いや、でもボクはメカさんが好きですよ。確かに仕事向きの人じゃないけど、面白いし・・・」
 「おいバクバク! つまりこういうことだな。オイラはすでにサジを投げられていると」
 「はあ、まさにその通りで」
 「がはははは! つまりやりたい放題ってことだな。特別待遇じゃん。こりゃ楽でいいや。ふははははは! 仕事はヤメだ。遊びに行こーっと!」
 「この人って、いったい・・・」


親指の想い出

 年末の大掃除なんぞしてたら、カミさんが「こんなの出てきたよ」と古びたフィルムケースを僕の目の前に差し出したんだよ。何だろう。フタを開けるとコロリと出てきた人の指。こいつは・・・まぎれもなく僕の指先じゃないか! 長い年月をへて自分の一部に再会にしたよろこびに思わず胸が熱くなったね。まるで古い恋人との出会いみたいにさ。

 その指先がまだ僕の指先にくっついていたのは、かれこれ12年も前のことだ。その頃僕は魚河岸じゃなくて、博物館で展示の仕事をしていたんだけどさ、ちょうど企画展の準備でパネルをカッティングしてるときだよ、きっと忙しかったんだな、普段は注意してんだが、ついうっかりと左手の親指、ほんの先っぽだけど、カッターでやっちまったわけ。
 刃の切れ味と自分の技術の高さが相まってか、そりゃ見事に切れたのよ。うん。ポーンと自分の指が放物線を描いて向こうへ飛んでいくのが見えたもん。それで次の瞬間には血がね、ほら、昔、ゴボゴボのジュースの販売機があったじゃない。あれみたいにダァダァ吹き出してやがる。もうクラッと来たね。
 「大変だ! おーい、救急車を呼べ!」
 「いや、自分で行った方が早いよ。ちょいと病院行ってくるーッ!」
 僕はとりあえずタオルでギュッと止血して、博物館裏にある病院に走った。後で分かったんだけど、そこは包茎手術の名医とかで、切るのは得意だけどくっつけるのはどうも専門じゃないみたいな。でもそん時はそんなこと言っちゃいられないよ。「先生、指落としちゃった! ねえ、くっつけて、くっつけてよ!」。突然わけの分からないこと叫びながら飛び込んできた闖入者に、看護婦とかビックリしちゃってさ。でも、さすが先生、その道じゃオマカセってだけある。落ちつきはらって傷口を見るや、こう言ったんだよ。
 「で、欠損した部分はどこにあります?」
 「あ、忘れた!」
 それでまた、もと来た道を脱兎の如く走ったの。指だーッ! 指・指・指・指―ッ!!
 職場の方じゃ病院に向かったケガ人が「指、ゆび」言いながら舞い戻ってきたんで大騒ぎさ。もう館を挙げて指の捜索が始まった。同僚のヤスさんが情景展示の人体模型を見て「アレの指先じゃ代用出来ないよな」なんて言ったんで、僕は露骨にイヤな顔をした。
 「あったよ、あった。ゴミ箱に。お茶っ葉に混じってたから分からなかった」
 何だかとても情けない気持になったけど、ソレ持って病院に急いださ。で、結果はくっつかなかったんだけどね。落とした部分がちょっとなんで、肉が盛り上がるのを待ちましょうってことになったのさ。不思議なもんだね。生えてくるんだよ指って。今じゃ左の親指、右より心持ち短いけど、ちゃんと指の形してるもん。でさ、落とした指先だけど、いくら不要になったとはいえ、捨てちゃうのもったいない気がしてね。それで、フィルムケースに入れて持ってた。コートのポケットに突っ込んどいたんだな。
 ここで身内のことを書いちゃって恐縮なんだけど、その頃、僕のカミさんとはまだつき合い初めたばかりでね。それもちょっとしたヤマ場だったもんで、僕はポケットに意味深なプレゼントを忍ばせ、ここぞというときにそいつを渡したもんさ。その時だよ。いっしょにくだんのブツがコロコロまろび出たのは。僕はそいつがその頃凝って作っていたプラ・フィギュアだろうと思いこんでさ、「あ、これもオマケにあげるよ。オイラの分身みたいなもんさ」てか、それは僕そのものなんだけどさ、そんなふうに間違えて渡しちゃったんだ。

 「あのときは何て悪趣味な人だろうと思ったわよ」
 「でも、律儀に持っていてくれたんじゃん」
 「何もとっておいたわけじゃないよ。それから引き出しに自分の"ヘソの緒"とかしまっておくのもどうかと思うけどね」

 え、ああいうモノは大事に保管しておくもんじゃないのかえ?



 サービス精神

 「ぶるるっ! うー、さむ。春とは名ばかりの寒さに凍死寸前だい! でもバクバクは体温高いので温かいなあ・・・」
 「ちょっとメカさん、やめてくださいよお! ひとの首筋で手を温めるのは。ターレ運転してるときにそういう・・・うひゃひゃひゃ! うーキモイ! なに手ェ入れてるのよ!」
 「だってバクバクったら、超ぷよぷよしてるしぃ、体温七十度くらいあるしぃ、ついさわりたくなっちゃうーっ! でもオレたちはモーホーじゃないからな。ただちょっと仲がイイだけさ!」
 「また、わざとそういう書き方するから読んでる人が誤解するじゃない・・・ホント、全然そんなカンケイじゃないですからね、この人のいうことみんなウソですよお。」
 「おいおい誰に向かってしゃべってるんだい。バクバクもだんだん読者目線でもの言うようになったな。」
 「だからこのシリーズは"ボク主体"だっていってるじゃん。いやがうえにも視線はこのボクに・・・ん? 何見てんだよ! やめろ! なぜ写すのだ!」
 「怒んなよ、一般人がカメラ向けてるだけじゃねえか。珍しいのよ、オレらみたいなのは。おーい、兄さん、逃げなくってもいいよ。ウチらってそんなに面白いかい? ・・・笑ってやがるよ。おいバクバク、お前の顔がよっぽど変だってよ!」
 「いやあ、ナニそれほどでも。」
 「別によろこばなくてもいいんだ。いいか、せっかく外の人がわざわざ見物にやってくるんだ。オレたち河岸の人間だって芸のひとつも見せるってのがサービス精神ってもんさ。ワカル? サービス精神よ。」
 「サービスって、じゃあ何? ボクに芸をしろと? ダメダメ、出来ないよ、そんなこ・・・やめろよケータイ向けるな! ・・・しょーがないなあ、じゃあやりますよ。でも何やったら・・・そうだ、ターレでアンタを轢いてやろうか?」
 「つまらねえこというなよ、ホントに恐がってるじゃないか。」
 「だってボクはマグロ切るくらいしか芸がないしぃ、あ、じゃあマグロ解体機でアンタを三枚に下ろしてやろう!」
 「だからやめろって・・・あ、ホント、逃げなくてもいいからね。おいバクバク、お前はエンターテイメント性に乏しくていかん。ちっとはアドリブも利かさなきゃこの世界じゃ生き残れんぞ。ま、しょうがねえや。ひとつお前お得意のターレの曲乗りでも見せてやれよ。」
 「え、ここでやるの?」
 「そうだ。オレが技の解説してやるから、しっかりやれよ・・・じゃあ、まずは軽く片輪走行からいくか。はい、段差を利用して片側上げまーす。そうして角度をつけつつ、ここでクイックにジャックナイフターンだ! はい、ここがシャッターチャンスだよ、パチリ! お次は前輪上げてウィリー。かれはこのままで銀座までいけるよ。パチリ! そして、バックギヤからのアーリーウープはトリプルアクセルでクルクルクル! これはまるでCOOLな技です。さあ、クライマックスは壁への突撃技、あのセナもお得意としたという、ウォールタップ決めたら壁を垂直に走るぞ! ライド! ライドだ! ライド・オン・タイムだ! ♪らーいどんた、こおっころに火をつうけて!!」
 「うたってるしぃ。まるで嘘ばっか言ってるけど、まさかそれがサービス精神だとでも・・・」
 「あ、いま気がついたの? オレは昔からずっとこのスタイルよ!」


 デジャヴ・マン(フカヒレ入り)

 「ティ〜ッす、ひさびさ登場のメバチだよん。皆さん、お元気ですかあ。ボクはこの通り、元気で〜す。ただいま究極のデザート“マグロスウィーツ”の開発などに着手しており・・・おやメカジキ、どーしたの、ボーッとして? 何か顔が青ざめてるよ!」
 「・・・おい、前にこういうのあったよな?」
 「へ? 何言ってんの。」
 「・・・いきなり意味なくお前が出てきて、ティースで、“マグロスウィーツ”だろ・・・確か前にもこういう場面あったはずだぞ!」
 「知らないよ。何たってボクが登場するのは2年ぶりなんだからね。もっと出番をくれ。」
 「ほら、そのセリフだ。今、お前がそう言うのをオレは前から知ってた・・・ていうかアレか。オレのこれ、予知能力?」
 「何言ってんの・・・ああ、そりゃデジャヴってえやつだよ。疲れてんの。脳の錯覚。それありがち。べつに普通。誰でもそう!」
 「たたみかけるように言うんじゃねえ。いいか、お前のよーな低級な脳みその持主には分かるまいが、オレのこの隠された恐るべきパワーみたいなのが、これから起こることを片っ端から予知してしまうという・・・」
 「おや、何かバカがふたりで話してるなあ、どこかで見たバカだなあ。」
 「ほーら、オレの言った通りここにキハダが現れた!」
 「別に何も言ってないじゃん」
 「いや、オレの脳裏にはまさにキハダのこのオヤジ顔が一瞬早く浮かんだ、ところへコイツが現れたわけだ。」
 「おい、メバチ、このバカはいったい何を言ってるんだ?」
 「何か予知能力だってさ。分かるんだって、これから起こることが。」 フカヒレ
 「ぶあっ。やはりバカだ! なあ、お前らって、何年たっても変わらねえんだな。」
 「ふっ、キハダよ、お前なんかに分からんだろうが、お前たちの未来も何も、すべてこのオレさまの頭の中に描かれてしまっているワケ。何しろ今のこの場面だって市場日記の締め切りのために無理やりつくり出していることに、お前らは気づくまい。」
 「何をわけの分からんことを言ってる。なら、これからここで何が起こるか言ってみろ。」
 「ほう、オレさまの偉大な能力にすがりたいと・・・よろしい! しからば教えてしんぜよう。行くぞ! パパラキピリアララマラゲーニャトロロスパゲティ! 見えたーっ!!」
 「何が見えたってんだよ?」
 「見えた、見えたぞ。今より起こることがーっ! おいメバチ! キサマはたった今この場で死ぬぞ。電車にひかれてな。まさに五体バラバラの轢死体。文字通りのマ・グ・ロ・・・」
 「な、何てこと言うのさ! 不吉にもほどがあるよ。だいいち、何で河岸のど真ん中で電車にひかれなきゃならないのさ・・・」
  “キィィィィィーッ、ガガガガ” 
  “イテテテテテ! ちょっと、どこ見てんのよ。イテテ、あー、すりむいちゃったい!”
 「おい、ほんとにひかれてるよ。バクバクだけど・・・」
 「しかもチャリにね・・・」
 「うむ、オレさまの言った通りであろう!」
 「全然言った通りじゃねえじゃん!」
 「ま、予言なんてもんはしょせん後づけさ。さて、せっかくだから、今これを読んでくれている皆さんの未来でも予知してみようかね・・・さあ、これからアナタに起こるのは・・・アナタに起こるのは・・・起こるのは・・・」
 「おい、どうしたんだよ!」
 「いや、確か前にも同じようなオチがあったような気がするんだがなあ・・・どんなオチだったか思い出さないんだ。」



 オジサンはオバサン

 世の中にはこのォ、威勢の良いご婦人というのがいらっしゃいますな。何事も男まさりと申しますか、口をついて出る言葉もチャキチャキとして実に勇ましいものでございます。
 「オラ、お前らうるせえんだよ! こちとら飲みすぎて寝ゲロ吐くし、頭ガンガンしてるし。オレの周りでベチャクチャしゃべってんじゃねえ!」って、これ、知り合いのお帳場の姐さんなんですがね。最早“オンナ”まで捨ててる方もいるようでございます。
 いっぽう近頃では、オジサンなのにオバサンっぽいというか、オカマじゃないけれど妙に女性的という男性もいます。物腰が上品で、柔和な顔立ちで、言葉遣いもやさしく、やけにカン高い声で、「ア〜ラ、そうよねえ」なんて軽くシナったりすると、世間のオバサンよりもずっとオンナっぽかったりします。こんなオジサンが2人以上集れば、やれどこの店がイイだの、ゴルフのスコアがどーだのと、実にかまびつしい井戸端会議が始まりますな。いったいホルモンか何かの関係でしょうかね。世のオジサンというのは年齢と共にオバサンに近づいていくように思えます。
 ところが、ここ魚河岸はまさに男の世界でございますから、これぞ男の心意気! を地で行く魚屋のオジサンが闊歩しておりますな。女性上位の風も築地までは届かないとみえまして、すでにWWF世界自然保護連合が絶滅の危機と指定する“男の中の男”すら生息するという地球最後のマンズワールドとなっております。
 アタクシがはじめてこちらにまいりました時など、築地の男たちのカッコ良さにシビレたものでございます。とくに長い下ろし包丁で巨大なマグロを叩っ切るマグロ屋の抜き差しならない表情には、ラストサムライはここにいた! まさにオスカー並みだと感動すら覚えましたね。毎日が真剣勝負のマグロ屋たちは一様に厳しく結んだ口もとに“寄らば斬るぞ!”と言わんばかりの迫力をたたえております。かれらこそ“男の中の男”に違いない! 本当にそう思いましたよ、最初はね。そう、最初だけですけどね・・・。

 ところ変って、こちらは仕事上がりのマグロ屋が集ってくる寄り合い事務所。
 「ちょ〜っとノ〜リちゃん! 今日の○水の1番どぉだったのォ。」
 「それがねそれがねそれがね、切ったらヤケ入ってんのよォ。もうがっかりプーッ!」
 「何か甘いものない? 茂助のドラ焼きが食べたいよぉ。きんとんでもいいよぉ。」
 「こないだのコンペ、3ペナで池ポチャでOBでブービー賞で帰りは検問で捕まってさ。」
 「シャチョウ!ねえシャチョウ!こないだ熱海で口説いてた芸者! ありゃオトコだよ。」
 「誰かオレの入れ歯見なかった? 確かここに置いといて・・・あ、茶碗ン中に入ってた!」
 「ねえねえねえ! ソバでも食べない? 取ろうよ、取ろうよ、アンタのおごりでさ。」
 「ア〜ラ、そうよねえ! ほほほほほ!」

 ああ、イメージが・・・サムライが・・・男の世界が・・・



 マグロ男由来

 昔むかし、ツキジの魚市場にたいそう正直者のマグロ屋がおったそうな。
その名をヨシオといい、生まれて一度もウソをついたことのない、あたまにバカがつくほどの正直さが、商売人としてはかえって災いして、いつも儲けの少ない商いばかりしておった。朝のセリ場でもホンマグロやミナミマグロなどの上物は買えず、決まって一番安い冷凍のバチを自分のお得意さんのために一本だけ仕入れるのが精一杯じゃった。それでもかれは、その安マグロをていねいに手をかけてお得意先に持っていったから、多くの魚屋さんから、ヨシオのマグロはおいしいと、よろこばれておったんじゃ。

 ある日のこと、ヨシオがいつものように仕入れたばかりの安い冷凍バチを小車に乗せて、えっちら、おっちらと歩いておったところ、ひょいと足がつまずいてしもうた。そのはずみで小車からマグロがすべり落ち、岸壁の通路をコロコロと転がっていった。
 「おや、これはどうしたことか。大切なマグロが逃げていくでねえか!」
 ヨシオはあわててマグロを追っかけたが、何しろコチコチに凍った冷凍マグロは勢いよくすべり、あれよあれよという間に、隅田川に落っこちてしもうた。
 「これはえらいことになった。困ったのお。いったいどうしたものかのお。」
 ヨシオはガックリと肩を落とした。もう一本仕入れようにも懐にお金など持っていない。お得意さんに申し訳ない。かれはすっかりとほうに暮れて、ボタボタと涙を流しておった。
するとその時、隅田川が光り輝いたかと思うや、水面からゆっくりと上戸彩似の女神が浮かび上がると、ヨシオを見下ろしてこう言ったのじゃ。
 「正直そうなマグロ屋よ。そなたは何を泣いておるのか。」
 女神の神々しい光に心打たれて、頭をたれたままヨシオは恐れながらに答えた。
 「実は大切なマグロを川に落っことしてしまったのでごぜえます。」
 「それは気の毒なこと。よろしい。わらわが落し物を探してしんぜよう!」
 女神は片手をひるがえすと、何と水中から極上の近海物ホンマグロが飛び上がった。
 「そなたの落としたものはこれかえ?」
 「いえ、滅相もございません。ワシはそんな上等なマグロは買えません。」
 「それではこっちかえ?」
 今度は丸々と太ったミナミマグロが出てきたが、やはりヨシオはかぶりを振った。
 「いえ、ワシの落としたのは、もっとみすぼらしい冷凍物のバチでごぜえます、へえ。」
 「するとこいつではないかえ?」
 女神が最後に出したのはまぎれもないヨシオの落とした安いバチじゃった。ヨシオはまちがいなくそれでごぜえます、と答えると、女神はすっかり感心してこうおっしゃった。
 「何と正直者のマグロ屋よ。そなたの純真な心に免じて全部持っていくがよい。」
 ヨシオは正直さゆえにホンマグロもミナミマグロももらって大もうけしおったのじゃ。

 さて、これをそばで見ておったのが、儲けのためなら不法表示もかまわないという嘘つきマグロ屋のワルオじゃ。かれは自分もこの慈悲にあずかろうと、隅田川からマグロを落とそうとしたが、もったいないので拾ってきたマグロの頭を投げ込んだ。すると、隅田川からドロドロという不吉な音と共に、水面からゆっくりとウガンダ似の大男が浮かび上がり、ワルオを見下ろして、こう言いおった。
 「うさん臭そうなマグロ屋よ。ワシに何か用か。」
 何かちょっと違うなと思いつつ、頭をたれたままワルオは答えた。
 「実は最高級ホンマグロを川に落としてしまって難儀しておりやして、へえ。」
 とたんに大男は天にも届くような大声でワルオを恫喝した。
 「このウソツキめ! キサマの落としたのはこのマグロの頭だ。キサマの頭にこいつをくっつけてやる!」
 そう言ってワルオの頭を引き抜くと、かわりにマグロの頭にすげかえてしもうた。

 その後ヨシオは一生を正直者として暮らし、一方のワルオは毎日が生臭くてたまらないながらも世にも珍しい“マグロ男”としてテレビに出演して出演料をもらい、それなりの暮らしをしたということじゃ。
 めでたし、めでたし。


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