第4回 新鮮なマグロは美味しくない

 私たちが魚の美味しさを表現するのに「活きが良い」などと表現します。「活きが良い」魚とは、つまり新鮮な魚であり、獲れたてをその場で締めたなら、最も「活きが良い」に違いありません。ところが、それが魚の最も美味しい状態なのかというと、必ずしもそうではなく、新鮮すぎる魚は歯ざわりもコリコリと堅く、どことなく深味がないように感じられることもあるように、新鮮イコール美味とは言えないのです。それはどういうことでしょうか。
魚は漁獲すると同時に変化を始めます。呼吸停止により体内組織の酸素が減少し、筋肉中のグリコーゲンが乳酸へと変わる解糖作用によって急速にATP(アデノシン3リン酸)が消費され、うま味成分であるイノシン酸に変わります。この過程で筋肉の硬直が起こり、魚体は堅くなるのです。そしてATPが完全に失われると、イノシン酸の値はピークに達するのですが、これを過ぎるとイノシン酸がヒポキンサンチンへと分解され、魚体は自己消化によって軟化し始め、やがて腐敗へと向かいます。
つまり、魚体硬直が解ける前後のイノシン酸に満ちた状態が最も魚のうま味が熟成した食べ頃ということになります。ただし、これは魚の種類によっても異なり、たとえば歯ごたえを楽しむヒラメは早めに食する方が美味しく、サバのように自己消化の段階で品質が低下する魚は熟成する以前に食べなければなりません。
ところがマグロのような赤身の魚は熟成が遅く、軟化し始めてからがもっとも美味しくなります。特に大型のホンマグロなどは獲ってから4日ほどが一番芳醇な肉質とされ、マグロの古名にちなんでシビ(4日)マグロなどと呼ばれています。
だから「新鮮なマグロだよ、美味しいよ〜」なんて売り文句はちょっとだけ眉ツバ。味の分かる魚屋さんなら「新鮮なマグロだよ、明日あたりが一番美味しいよ〜」って言うでしょうね。

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