ヤロウズ通信・第1号


 
実況レポート『夢スタジオ1030』

 

 2004年2月14日、テレビ番組「子ども放送局・夢スタジオ1030」に、魚河岸きってのパフォーマー、"ヘンリー蛤"こと生田與克が出演しました。
 「夢スタジオ1030」は毎月一回、各界の有名人が生放送で登場し、夢をテーマに子どもたちへ魅力的なメッセージを伝える番組で、スタジオの子どもたちと対話をしたり、ファックスやインターネットからの質問に答えるほか、テレビ電話で出演者と話が出来る双方向性が特色のプログラムです。

 「それがさあ、先月がダイエーの王監督で、オレの次は手塚眞さんだってんだよ。これじゃあまるで大企業のビルの谷間に建つラーメン屋じゃねーか。いったい何だってオレなんかが出ることになっちまったんだろうな?」

 いやほんと、有名人続出の番組にどーして一介のマグロ屋が出演することになったのか? そんなミステリーの行方もふくめて、今回は"空飛ぶマグロ屋・ヘンリー蛤テレビで大活躍の巻"を付き人ヤロウズ連の実況レポートでお送りしたいと思います。

 
 ステージフライト!

 オンエア2時間前、渋谷のとあるコーヒ店でヘンリーの表情はやや青ざめていました。
 「・・・あがっちまってよ。」
 えっ、何! あがってるって、それホント? ヘンリーでもあがることあるんだ?
 「それが最初はちょっとした出演だろうってタカくくってたんだよ。でも、昨日打ち合わせでスタジオ行ったら、総勢50人くらいのスタッフが準備してるんだぜ! おいおい、ここでやるの! て感じさ。もう気おくれしてな・・・あーあ、お前代わってくれねえか?」
 じょ・冗談じゃない。安請け合いしたのが悪いんだから、ま、ガンバるんだね。大丈夫、ヘンリーは本番に強いんだから、楽勝楽勝・・・などと大してなぐさめにもならないことを付添いの気楽さで言ってたんですけどね。

  さて、すでに子ども放送局のある国立オリンピック青少年センターのスタジオでは放送準備が着々と進んでいました。 いや、その人数にビックリ! ひとつの番組をつくるためにこんなにたくさんの人がかかわってるんだあ、と感じ入ると同時に、何だかそばで見ているこちらが緊張し て きちゃったよ・・・ おーい、ヘンリー大丈夫かあ?

 「おう、もう腹くくったよ。ダメもとだぜ! もしどうにもいけなかったら番組途中にあのドア蹴破って逐電だ! そン時はいっしょに逃げような!」

  そうだ、その調子だ! そのいいかげんな姿勢こそ魚河岸魂ってもんだ。
  ガンバレーッ、ヘンリー蛤!

 
 いよいよ番組スタート

 「みなさん、こんにちは。夢スタジオ1030です!」
 司会の藤本ケイさんの元気なアナウンスとともに番組がスタート。スタジオには7人のお友だち。 みんな元気が良いですね。
 そこへセリ帽に長靴、手カギぶら下げた河岸スタイルでヘンリー登場! おおっと、ちっともあがってないじゃないの! さすが本番野郎と言われるだけありますな。
 セリって何? 
 手カギはどうやって使うの? 
 マグロをおろす包丁って刀みたいだね! 

 クイズを交えながら楽しく市場や仲卸のことを説明していきます。 へえー、マグロ屋って楽しそーじゃん! って、市場のオレらが思ってどうする!
  まあ、そんなふうに魚河岸野郎の私らでさえ思わず引き込まれてしまうほど、ヘンリーの話しっぷりはとても自然でした。

 「マグロ屋だった父親の印象って良くないんですよ。いつもマグロの臭いとかして、"ああ、臭えなウチのオヤジは!"とか思ってね。こういう仕事には絶対につきたくな、と考えてました。」

 子どもの頃はパイロットになるのが夢だったといいます。でも高校3年のときにお父さんが大病を患い、それを機にかれは家業のマグロ屋を継ごうと一大決心をします。

 「アメリカでホームステイした先に僕よりひとつ上の男の子がいたんです。
  その子は夏休みだというのに毎日働いているんですね。自力で学費を稼いでる。そんな同年代の自立した姿に感化されて、よし、自分もやってみようという気持ちになったんじゃないかなあ。」


 東京でも有数の進学校に通っていたヘンリーは同学年でただ一人だけ大学へは行かずに、マグロ仲卸の世界に飛び込んでしまったんです。

 「正直えらいところへ来ちゃったなあ、と思いましたよ。朝は早いし、水は冷たいしね、みんな言葉使いが乱暴でしょ。こりゃもたないやとあきらめかけてた。でも、まわりの声があるんですよ。どうせお坊ちゃん学校出だろ、みたいなね。そんな風に言われるのがもうくやしくて。ただ反発心だけでがんばっちゃったようなものかな。」

 そうして20年。いつしか魚のことなら酸いも辛いもかみ分ける仲卸に成長しちゃったヘンリーでした。かつてのお父さんみたいに、いつもマグロ臭いオジサンにね。

 
 夢をもういちど手に入れる

 「今いちばん何がしたいですか?」
 そんな質問にヘンリーはすかさずこう答えます。
 「空を飛びたいねえ!」
 そうなんです。かれの夢は今も変らず"パイロットになること"。

  「大人になったときにかなえられなきゃ"夢"は消えちゃうように思う人もいるけど、僕は違うと思うんだ。いつまでも持ち続けるべきだし、もしも失くしちゃったら、そのときは大人になってもういちど手に入れればいいんだよ。」


 いつの日かパイロットになることを夢見て、かれは忙しい仕事の合間をぬっては、毎週のように滑空場に出かけて行きます。そして、実際に空を飛んだり飛行機や飛行場の整備をして一日を過ごすんだそうです。
         
 「"夢"ってさ、あきらめずにずっと持っているとね、何とかかなうものだよ。
  僕はそう思うな。」


 番組のなかで子どもたちに語りかけるヘンリー。同時にそれは大人の私らにも深く届いたのでした。


 もうひとつの「夢スタジオ」

 本番前のステージフライト状態もどこへやら、次第にテンションを上げていくヘンリー。周囲はホッと胸をなでおろしましたが、そのなかで誰よりも喜ばしく感じていたのは井上さん――今回の「夢スタジオ」のディレクターその人ではないでしょうか。

 それはこの放送からさかのぼること半年前のできごとです。
  いまだ残暑のきびしい8月、井上さんは友人といっしょに築地市場に立っていました。

 「ちょっと行きづまっていて元気が出なかったんですね。それで友だちが"良い所があるヨ"と連れてきてくれたのが魚河岸。確かに市場のダイナミックさを肌で感じてちょっとだけ元気をもらった気がして、船の停っている岸壁で気持ち良い海風に吹かれていました。するとそこへ・・・」

 突然自転車に乗った変な兄チャンが声をかけてきたのです。
 「ねえ、こんなところで何してんのお?」
 この兄ちゃんこそ若い女の子となれば必ず声をかけなければ気がすまないというヘンリー蛤。世間じゃそれを"ナンパ"といいますが、かれにとってはまったく普通の挨拶。
 「だって、すれ違ったら一生会えないかもしれないじゃん。なら"こんちは"って言うのも悪くないだろ」
 いかにも魚河岸の人、というその人なつっこさに、井上さんは少し気持ちが明るくなっていくのが分かりました。
 「もうくよくよ考えるのはよそう、って思ったんです。とても印象深い方でしたね。」

 そんなことがあってから少したった10月のある日、井上さんに「夢スタジオ1030」の企画募集の話がもちかけられます。テーマは"食"。井上さんにとっては特に詳しい分野ではなかったのですが、とにかくやってみよう。自分の企画を出してみよう、という気持ちになりました。くよくよ考える前に実行だ、と。

 「テレビの仕事を始めて、もうすぐ3年になりますが、実は自分の企画オンリーで番組をつくったことなかったんです。いつも他の人の企画だったり、すでに話題になっているものを再度練り直すというような。」

 でも、今回は自分の思うような番組をつくるんだ。そんな強い気持ちが井上さんの心に芽生えていきました。
 「夢スタジオ1030」のこれまでの出演者を見れば、有名な料理研究家の人に出演を依頼するというのが王道だったといいます。でも、それではツマラナイと井上さんは思いました。有名人に当たり障りのない話をしてもらうよりも、子どもたちに夢や想いを伝えられる人に出てもらいたい。
 そんなときに井上さんの脳裏に、あの時の変な兄ちゃんの顔が浮かびました。
 "そうだ、あの人を番組に出せないかしら"
 「そんなの無理だって言ったんだよ。でもね、、ちょいと落ちこんでた彼女がやる気出したんだからいいじゃないって思ってね。それに今回が最後のチャンスってわけじゃないし、いいよ、いつだって協力してやるさ。そう言ったらね・・・」
 井上さんの企画は見事に採用され、番組のディレクターとして抜擢されることになったのです。
 「マジかよ。テヘーッ、またオレ安請け合いしちまったい!」
 ヘンリーもビックリの企画通過。でも喜んでばかりもいられませんでした。放送に向けてやるべきことは山積みです。井上さんにとっては初めてのオリジナル企画でのディレクター。期待と重責に押しつぶされそうになりながらも、何度も何度も脚本を書いては直しました。そして、ようやく撮影にこぎつけたのは真冬のことです。
 「クソッ寒い河岸に彼女何度も足を運んでね。上手くいかなくて上司に怒られるし、自分が不甲斐なくてジリジリしてる様子が分かるんだよ。見てるこっちが気の毒になったけどね、でもこれも彼女の勉強と会社も好きにやらせてるんだろうと勝手に思って、黙って見てたよ。」
 周囲がハラハラと見守るなか、しかし、井上さんはとうとう最後まで弱音をはかずにやり遂げました。夢をテーマとする「夢スタジオ1030」。それはまた、井上さんが自分の夢を自らの手で紡いだ記録でもありました。

 
 みんな生命を食べている

 「夢スタジオ1030」は本当に盛りだくさんの内容で面白ワクワクのままに番組は進んでいきました。途中この「魚河岸野郎」のことも紹介されてうれしかったんですけど、1時間30分、もうあっという間に過ぎてしまいました。
 最後にヘンリーが子どもたちへ語ったメッセージ。これがとても印象的でしたね。

 「食べ物というのは、もとをただせば必ず生命(いのち)です。それを絶対に大事にしなければと思うんです。よく"このマグロは脂がないからダメだ"とか"これおいしくないからイヤだ"なんて言いますよね。でもそこには生命の犠牲があるのだから、おいしく食べてあげなきゃいけないんです。いろいろな知恵を使って、魚も肉も野菜もぜひおいしく食べて下さい。どれも生命なんですから。」

 

 「あー、終わった終わった。どうもお疲れさまでした! どう? みんな魚を好きになってくれたかな。そんな子が一人でも増えれば、いやもう、今日は来たかいがあったってもんだよね・・・ははは、それじゃあ!」

  それじゃあって、ヘンリーどこへ行くんだよ! え、解体ショー!? おい、これからまだワンステージやるっての! ほえええん、何てタフな野郎だ・・・

  *********  *********  *********

 おわりに

 というわけで、「夢スタジオ1030」が放送されるまでに本当にたくさんの人がかかわり、人知れぬドラマもあったことをまのあたりにして、それをちょっぴり皆さんにお伝えしたくて、つたない実況ながらもレポートしてみました。
 なお、番組についての詳細は下記のホームページでご覧ください。

     関連URL 子ども放送局 

番組制作スタッフの皆さん、本当にお疲れさまでした。
司会の藤本さん、お世話になりました。
名司会に助けられどうにか役目を果たせました。
井上さん、記念すべきデビュー作にかかわれてうれしく思います。
そして、会場に来てくれたお友だち、それから秦野のお友だち、
皆さんが魚にちょっとでも興味を持ってもらえたことがなによりもうれしいです。
今度は市場にも遊びに来て下さいね。

皆さんどうもありがとうございました。またお会いしましょう。

                                   生田與克

  

ヤロウズ通信第1号 2004年3月20日発行
  発行所:ヤロウズ通信社 住所 中央区築地魚河岸のどこか
責任編集:ハラキリ寿司本舗
   写真:ペンちゃん
   協力:こりまさん、Qちゃん


戻る